ページを捲れば波の音
指に残った砂の粒
そのうち消えると知りながら
砂に思い出を刻み
いつか終わると知りながら
波の物語を辿るうち
自分で描きたいと
思うようになったの
出来すぎたフィクションでいい
自分で描いた筋書きなら
それはノンフィクション
「物語を生きる 」ことに
どんな違いがあるというの
世界中どこにも存在しない
奇抜なフィクションでもいい
あなたが望んだ物語なら
それはノンフィクション
そこで生きるあなたを
私はそばで
見ているわ
color
菫
on 2023/07/18
春に出逢ったあなたの
冬衣装が眩しい
時の流れとは
思い出へと
色づくことなのですね
新しい風が吹けば
色はすっかり変わるでしょう
新しい風が吹けば
時が人をも連れ去るでしょう
新しい風が吹いても
あなたは私を
仰ぎ見てくれるでしょうか
背筋を伸ばし
この丘に立つ
両手を広げ
その風を待つ
color
薄青
on 2022/02/19
私の心は乾いていた
雨の音でそれに気づいた
街を弾(はじ)くピアニスト
誰かの頬を滑り降り
アスファルトの色を変える
私の心は眠っていた
目が覚めたことでそれに気づいた
窓を伝う幾筋もの
涙が世界を塗り替える
演目のないクラシック
ただ一心に降り注ぐ
あなたのようになりたかった
それが私の夢だった
雨垂れの躊躇に構いもせず
あなたは私をノックする
それはもうほんとうに
終わってしまったことなのかと
color
臙脂
on 2021/02/02
見知らぬ街の見知らぬ場所も
いつか過ごしたあの街に
どこか似ている
通りすがりの見知らぬ僕を
ちらりと見やり
見知らぬ街は暮れていく
小さなアパートの前で
ボール遊びする子供たち
夕飯の匂いのする道
茜色のメロディ
さぁもう帰る時間だよ
会いたい人が待ってる
迎えてくれるその人は
いつまでもいてくれるわけじゃない
長く果てしない休みだって
いつかは終わりがくるように
color
茜
on 2020/02/29
その河は
水の冷たさを知っている
その河は
流れの厳しさを知っている
それでも身を浸せという
その身をもって確かめるのだと
Over the river
貫く冷たさで
甦る体温がある
Over the river
この痛みを知らなければ
泳ぎだせない海がある
color 深紅
on 2009/07/16
何かが足りないと
思わなくていいように
何もない場所へ行きたい
ここから出ていきたいと
思わなくていいように
遥かな場所へ行きたい
color 青
on 2009/02/25
私が落とした一滴を
すくって飲む人がいる
それが涙でも
それが毒でも
私が捨てた一滴を
吸い上げる草がある
それが薬でも
それが毒でも
そうして今日も
いま この瞬間も
この海のどこかで
color
深紅
on 2009/01/22
ぼろぼろのときは
こころがきゅっとひきしまる
ぐちゃぐちゃのときは
こころがすっとたちあがる
もんだいがふえるほど
じんせいはずっと
しんぷるになる
color
白
on 2009/01/04
あなたを見ると切なくなるのは
私がとうに棄ててきたものを
まだ大切に 持っているから
あなたを見ると苛立つのは
私が必死に隠しているものを
堂々と首から ぶら下げているから
あなたを見ると哀しくなるのは
今このときがいつか思い出になることを
どこかで分かっているから
color
菫
on 2008/07/30
風も生きてるんだろう
時々 声を上げて泣くから
雨も生きてるんだろう
落ちてもまた 空へ還るから
誰かの “悲しい” は
僕の “悲しい” じゃないから
なかなか分からない
誰かの “痛い” は
僕の “痛い” じゃないから
なかなか分からない
だから時々 空を見上げる
だから時々 目を閉じる
君もひとりで
泣いたりするのかな
color
群青
on 2008/05/22
歩みを忘れ
瞼でシャッターを切る
あなたは自分がどんなに美しいか知らない
そこにいるだけでもう誰かの
光と闇に交差していることを知らない
ただの一度でも
振り向いてくれたなら
この世界は変わるのに
color
薄紅
on 2008/04/15
さくらいろのみちは
立ち止まれない
流れゆく春の川
地中深く根を下ろし
この場所で咲くひとよ
あなたを抱えて
進むことはできない
どれほどそうしたくとも
color
薄紅
on 2008/04/05
早送りの雲の流れを
見上げる僕はストップモーション
どんどんどんどん忘れていく
忘れたくないことばかり
みるみるうちに目覚めていく
さよなら告げたものばかり
頭の中の選別人は
今日も休まず作業を進める
僕の許可も得ないまま
color
鶯
on 2008/03/09
君が星に気づいたとき
はじめて光は君に届く
君が光を受け取ったとき
はじめて光は輝きを放つ
まるで
たった今 生まれたかのように
まるで
たった今 出逢ったかのように
color
金
on 2008/02/09
その人は
その人らしいやり方で
その人の望むように
その人になっていく
その人が
その人になるのをやめたら
その人であることを放棄したら
その人は何処へ行くのだろう
その人を待つあの人は
何処かで泣くだろう
その人を知ることもなく
流れる涙にも気づかないまま
ただ泣くだろう
color
銀
on 2008/01/02
新聞にも載らない小さな事件が
今日も僕を悩ませる
悩みたい 悩むことで
背負いたい 背負うことで
カチリとネジが
巻かれるから
今日も僕は生きています
これが生きるということなら
color
銀
on 2007/11/05
僕は 一体誰なのか
忘れてしまったのに
誰かが呼んでいるような気がする
僕はどんな人間だったのか
忘れてしまったのに
行かなければいけない場所が
あるような気がする
君が 一体誰なのか
忘れてしまったのに
放っておくことが
どうしてもできない
color
群青
on 2007/10/15
揺れるときは
おもいっきり揺れる
グラグラして
フラフラして
ワナワナする
そうしていれば
ちょっとやそっとじゃ
倒れない
color
黄
on 2007/09/28
目が覚めたら朝だった
今日も朝が
私に逢いに来てくれた
希望は音を立てずにやって来る
また始めることを
許された朝
color
金
on 2007/08/25
怒ったのは
愛してほしかったから
傷つけたのは
忘れてほしくなかったから
color
深紅
on 2007/08/18